毎週、ネットでネイティブと英会話する公立小学校

 

国内の小学校における英語教育は、2008年度から本格化しています。小学5~6年生を対象に外国語活動として始まり、2011年度には「小学5年生から必修」となりました。これが2020年度には「小学3年生からの必修化」「小学5年生からの教科化」とされ、2018年度から段階的に実施されていくことが予想されます。これに先駆け、オンライン英会話サービスのレアジョブと業務委託契約を結び、2015年度から小学6年生に向けてオンライン英会話授業を始めた小学校があります。それが佐賀県にある公立の上峰小学校。6年生向けの授業が好評だったため、2016年度は5年生と6年生の英語の授業にオンライン英会話を導入しました。上峰町教育委員会で教育長を務める矢動丸壽之さんに詳しく聞きました。


■県主導での学校への情報端末導入。活用事例として英語の授業が進化!

日経DUAL編集部 今回、オンライン英会話サービスを英語の授業に活用することになった背景を教えてください。
矢動丸さん 文部科学省の教育再生実行会議第3次提言を踏まえて、初等中等教育段階からのグローバル化に対応した教育環境づくりを進めるために、2015年度からマンツーマンによるオンライン英会話授業を実施しています。
 国の地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)事業を活用し、オンライン英会話委託について全国的に募集を掛けたところ、レアジョブさんが名乗りを上げ、パイロットプロジェクトとして当校が使用していた教材『Hi, Friends!』に沿ったスピーキング教材を開発してくれることになりました。どのように授業に導入するかは子どもたちを第一に考え、子どもたちの声も取り入れました。現在では、上峰町だけでなく、近くの神埼市などでも、色々なサービスを使った英会話活動の取り組みが始まっています。

―― こういった取り組みは、いかに継続させるかが重要になってきますね。

矢動丸さん 継続は非常に重要です。2020年の新学習指導要領では、小学5~6年生も英語(英会話)の授業の対象になっています。英語の授業では、知識だけではなく、コミュニケーション能力も同時に身に付けていかなくてはいけません。そのために、上峰小学校のように定期的に1対1で英語の対話練習を繰り返し、コミュニケーション能力を鍛え、子どもたちに「自分は英語で会話ができるのだ」という自信をつけていってほしいと考えています。
■まずはALT講師が語彙や文法を教え、オンラインでの授業に移る
―― 授業はどのように行われるのでしょうか?

矢動丸さん まず、ALT講師による語彙や文法のインプット(20分)を行います。その後、オンライン英会話授業の準備をし(5分)、オンライン英会話授業(15分、マンツーマン)に移ります。最後に、次回の予習と宿題確認(5分)をする、という45分間です。これを2015年9月から2016年3月の間(2学期・3学期)で、6年生は週1度程度、合計20コマ実施しました。

 

 

■半年で生徒の7割が「英会話に自信を持てるようになった」と回答
―― オンライン英会話サービスを使い始めたことにより、子どもたちの英語に対する関心は変化しましたか?

矢動丸さん 導入した2015年の1年間、授業を受けた生徒たちにアンケートを取ってみたところ、7割が「英語を話すことに自信を持てるようになった」と答えました。
 2015年度の6年生は、上峰町の姉妹校である韓国の学校の生徒とSkypeで直接話す機会を頂きました。外国人の先生たち以外と英語で会話するのは初めてだったので子どもたちも緊張していましたが、いつも勉強している英語を試し、大きな自信へとつながったようです。
 従来、上峰小学校ではネーティブの先生による英語の授業は週に1度だけでした。外国語指導助手(ALT)さんが5年生と6年生の教室を訪れて実施するもので、“先生1人対生徒40人”という授業でした。しかし、オンライン英会話サービスを活用し始めてからは、1対1でネーティブ講師と会話することにより、英語を話す・英語に触れるという経験が一気に増えました。
 相手の言っていることが分からない、自分が何と言えばよいか簡単には分からないという状況でも、1対1だと自分でどうにかしなくてはいけないため、ボディーランゲージなども総動員してどうにかこうにかコミュニケーションを取るようになります。
 英語の学習ではインプットだけではなく、アウトプットも重要です。オンライン英会話サービスの導入で、インプットとアウトプットの両方が可能になったと思います。

―― オンライン英会話サービスを利用した英語の授業に対する、保護者の反応はいかがですか?

矢動丸さん どこの親御さんも子どもが笑顔で学校から帰ってきてくれるのがうれしいのです。この英会話の授業に関しても、子どもたちの満足度も高く、保護者からのネガティブな反応はありません。事前の保護者向け説明会でオンライン英会話サービスを体験してもらったので、不安も払拭できたのではないかと思います。

 

 

―― 導入直後は、回線環境が課題だったと伺っています。

矢動丸さん 上峰町では、運営員・支援員・コーディネーターという役割を設け、町全体で子どもたちの教育をサポートしています。授業中も、常に授業のネット回線を確認する担当として、大人を1人配置しています。レアジョブ側にレッスン供給センターなども作っていただき、今では回線環境も安定しています。
■幼稚園から高校まで、一貫した英語教育に取り組みたい
―― 今後、矢動丸さんがICT教育で目指すことを教えてください。

矢動丸さん 幼稚園から高校までの一貫した英語教育に取り組みたいという思いがあります。一部の幼稚園では既に英会話のレッスンを実施しているのですが、その後、小学1年生から4年生までの取り組みはなく、小学5~6年生になるまでの間は空白になってしまっています。
 中学校でも、実践的な英会話の学習を積極的に導入していかなくてはいけません。幼稚園から高校まで一貫した英語教育に取り組み、子どもたちが社会に出た後に、実際に使うことのできる英語の習得を実現し、グローバル人材を育成していきたいと思います。
 また、本当の意味でのグローバル人材を育てるために、子どもたちには日本のことも勉強してほしいと思います。まずは英会話で自信を持ち、さらには、自分の興味を持つ分野の学習にもチャレンジしていってもらえるような学習環境を整えたいと思います。

【6年生女子のコメント】
 オンライン英会話サービスを活用した英語授業が始まるまで、日常生活の中で英語で外国人と話す機会はほとんどありませんでした。外国人の先生と話すのは最初はとても緊張しましたが、先生が優しく話してくれるので今は楽しめるようになっています。オンラインでの授業では時間があっという間に過ぎます。英語を話すことに少し自信が持て、外国に行ってみたいという思いが強まっています。そして、将来、仕事で英語を使ってみたいです。


【6年生男子のコメント】
 もともと英語は得意ではありませんでしたが、3回目の授業くらいからだんだん英語で話すことに慣れてきました。外国の人と話ができるということ自体がとてもうれしいです。日本は小さな国ですが、すごいところがたくさんあるので、英語を通して日本文化の魅力を世界に発信していきたいです。

(取材・文/日経DUAL編集部 小田舞子)